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2007年 07月 07日
また来年も一緒に、二人で・・・。
どちらが言い出したのかもう覚えてないけど、私たちはまだ少し肌寒い夏の始まりの頃、もう叶えられない約束をした。 七夕だというのに織姫は今日も一人ぼっち、約束の波止場で彦星を待ち続ける。 「花火、奇麗だな・・・。」 まるで、あの人のよう・・・とは口に出せず。 今夜は七夕花火大会が行われている。色とりどりの奇麗な浴衣に身を包み乙女達はひと夏の思い出作りに励んでいることだろう。私には関係ないこと。一緒に行こうなんて誘ってくれる友達も、ましてや彼氏もいないですし。はぁ。 花火大会、一緒に行こうよ。僕、いい所知ってるんだ。 小学校の教室の隅っこで、一人で本を読んでいた私にあの人はそう言った。いつも無愛想だった私に同年代の友だちはおらず、先生からもどこか煙たがれるような態度で接せられていた。 だからこそ、何で私なの?という疑問が真っ先に浮かぶ。なんで、なんで。 「私なんかと行っても面白くないよ。」 馬鹿。バカばか。 正直言って私は嬉しかった。小学生の年齢で一人で生きていくなんて達観はしていなかったし、花火大会はこの片田舎の一番のイベントだ。人並みに子供だった子供の頃のあたしはもちろん楽しみで。しかし両親と会場へ向かう途中に同じクラスの女の子達が友だち連れで歩いている姿を見て、言葉では説明できないような、寂しい、かな。そんな気持ちになった。 だから、彼からのお誘いはとっても嬉しかった。内心すっごいドキドキしていたと思う。 だから断ろうとした。 ずっと一人だった私には彼は許容できる存在ではなかったから。ちっちゃな女の子はもう、周りの状況だけで飽和状態だったから、彼が入ってきたら私はこぼれちゃう。 「俺は、楽しいと思うけどな。」 そんなこと言われて嬉しくないわけがないじゃないわけじゃないけどやっぱり嬉しいのさ! 花火大会当日の夜、私は彼の後ろを黙って付いていった。クラスのみんなみたいなかわいい浴衣なんて持ってないからいつもの学校に着ていくようなTシャツなんか着ちゃって。彼は甚平で少しでも雰囲気だしてるのに・・・。 なぜか会場へと続く道とはまったく逆方向へと向かっている。こっちじゃないよ?って言っても大丈夫大丈夫。って彼。不安になる。 もしかして騙されてるのかな。 いままで直接的なイジメってやつは無かったけれど、もしかしてこのまま彼に付いていったらクラスの男の子達が待ってて、×××とか×××××になったりとか・・・。 結果としてそんなことは無く、彼は誰もいない波止場へと連れて来てくれた。 「こんなところあったんだね。」 「ん・・・。」 さっきまで少なからず何かと話しかけてくれた彼は、この波止場に着くなり口数が減ったような感じがした。 腕時計を見ると時刻は夜中の7時半に差し掛かるところ。顔を上げるとちょうど、水平線から一筋の光線が上と下へスーッと移動していく。音も無く虚空に描かれる光の渦。そして少し遅れてドン。水面に映し出されるその光の渦は、穏やかな波に形を崩されまるで抽象画のように虚空のそれとはまた違った芸術を見せてくれる。今度は何発もの小さな花火が連続で上がり、まるで昼間の太陽のような明るさを湛える。 ただ、花火っていうものは皮肉なことに、自らの煙でその麗しい姿を隠してしまう。それはまるで恥ずかしがりの独りよがり、それはつまり私自信。他人に対して無愛想な態度での自己防衛、頑なに守りを固めているのに心のどこかに私をどこかへ連れ出して欲しいなんて我侭な私。 そんな私の全てを満たしてくれた彼は私にはお空に舞うお花なんかよりよっぽど眩しい。彼は光なんだ。花火の光。で、私は音かな。いや、きっと音なんてものだって私にはもったいないのかも。花火の光は音なんかより何倍も速い速度でこの世界を走り抜けて、ドンっていう音は必死に光の後を追うんだ。同じ地点は通り過ぎることができるかもしれないけど、一度でも離れてしまったら遠ざかるほどその距離は絶望的に広がる一方。私は彼みたいな人間には追いつけないんだ。 奇麗だね。 うん。 やっぱり、××とここに来れてよかったよ。 ・・・。 また、来年も・・。 その約束は、叶えられなかった。 最後にあがった一際大きくまん丸な花火は、あの日見た、霞がかかった真っ青なお月様のようだった。
by w_h_o
| 2007-07-07 21:04
| 月の煙
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