|
2008年 05月 22日
私は、死のうと思った。
最初は小さな、本当に小さな違和感でした。それがどんどん肥大していって、やがて高熱をだして倒れてしまって。 次に目が覚めた所が今の病室でした。お父さんとお母さんが私の手を握っていてくれたあの暖かさは忘れることができません。 それからも、私は何度も高熱を出しては意識を失い、その度に両親は仕事を放り出して私の病室に駆けつけてくれました。 すごく、怖かった。 私が死ぬという現実にじゃない。 それは一瞬だったのか、いつからだったのか。 私は見てしまいました。お父さんの疲れきった顔を。お母さんの苛立った顔を。 そう、きっと一瞬。でもそれは永遠に私の眼球に焼き付けられる。 もう駄目です。 お父さんもお母さんも、本当に優しいから。 私のせいでかさむ治療費、私のために消費されていく時間。 私がどんな重荷だろうと、きっと両親は私を背負ってしまう。 その優しさが、すごく怖い。 だから、私は死のうと思った。 こんなにも優しい地獄なら、本当の地獄のほうがずっと良い。 #
by w_h_o
| 2008-05-22 07:08
| 月の煙
2008年 05月 13日
暇だねぇ。
こんな朝早くからやることと言えば早苗ちゃんちに煮干し貰いに行くぐらいだもんなぁ。 煮干しもいいけど、久しぶりにマカデミア・ナッツが食べたいね。ほんとこの体は不便なんてもんじゃぁない。コーヒーは飲めません、ナッツも食べられません。ましてアルコールなんて摂取して日にゃ中毒時々昏睡を果てご臨終だそうで。いや、まいったねこりゃ。 僕がまだヒトだった頃は昼真に起きだして優雅にインスタントコーヒーと、買い置きのナッツの塩詰袋を空けるのが日課みたいなものだったっけ。コーヒーにはシガーシロップをたぁっぷり入れるのが好き。我が愛娘はそんな甘党の僕を見て冷たい目線をプレゼントしてくれたもんさぁ。でもね、これがナッツのしょっぱさにはちょーどいいんだなぁ。なんで解かってくれなかったのかなぁ。 結局、それは最後まで理解されずに殺されちゃったんだけど。テヘッ。 まったく・・・暇だ・・・ねぇ・・・? あーあー、柄にもなく過去になんて浸っちゃったもんだから幻覚でも見ちゃったかしらん? なんか真っ黒だったけど・・・。まさかね、すーちゃんはピンクの似合うかーいらしい女の子だっての。消去消去、いらない記憶はすぐさまごみ箱へ。ごみ箱へ入れたら中身を空にしないと容量は減らないぞっと。 「教授、おはよ。今日も早いね。」 あ、どうもおはよう早苗ちゃん。今日もおいしい煮干し期待してます。 「でもねー実は今日、煮干し切らしちゃっててさーごめんねぇ。」 おおいそりゃないぜセニョリータ。ちぇー今日は飯抜きかよー。健二さんとこいけば鰹節の一つでも分けてもらえるかなぁ。 「っておおぃ!餌で釣らないとすぐどっかいきやがるぜ。また明日きなねー小川教授ー!」 「みゃー。」 あ、どうも。 小川教授こと、猫です。 #
by w_h_o
| 2008-05-13 21:49
| 君の足音
2008年 05月 13日
「煙草って美味しいの?」
彼女は唐突に、そんな事を聞いてくる。 艶のある真黒のロング・ヘア。前髪を額にのところで切りそろえ、その瞳に架かる眼鏡もまた黒く縁取りされている。身に纏う学園指定のセーラー服もまた真黒。 「美味しくはないね。」 「そう、じゃぁこれをあげるわ。」 そう言ってピンク色の可愛らしい包み紙の、棒のついた飴玉を一つ左手でポケットから差し出す。 彼女はいつでもコレをほおばっている。色々な味があるはずだと記憶はしているが、ストロベリィクリーム味のみを嗜む。橇賀町店と名が付くコンビニエンスストアでは、恐らくストロベリィクリーム味のこの棒飴を見つける事は難しそうだ。買い占めるから。 「遠慮しとく。甘いのは苦手なんだ。」 「あら、そうなの。煙草って甘いんじゃないのね。」 「御所望とあらばお一つどおぞ。」 懐から一本取り出そうとして、煙草を咥える口元にもう一本の棒状の物が入ってきた。 彼女の咥えたその飴玉の棒が僕の口から煙を吸いだし、そして彼女は少し、咽た。 「・・・苦いわね。」 「さいですか」 ・・・あの飴玉の棒、筒状だったのか。 #
by w_h_o
| 2008-05-13 00:23
| 君の足音
2007年 09月 02日
子供の頃、僕は母親について買い物に行くのが好きだった。
おんぼろの自動車に乗り込んで5分もかからない程で到着するスーパーマーケット。そこには小さなパン屋が入っていて、そこには小さな蒸しパンが売っていた。 フワフワしたその食感に、小さく切ったさつま芋がとっても甘くて、僕はいつも母親にねだってその蒸しパンを2個買ってもらっていた。 パン屋の、ひまわりの花を象ったロゴの入った袋を持ってあの子の家に遊びに行くのが大好きだった。二人で誰もいない海辺に行ってそこらじゅうを走り回って、お腹が空いたらいつもの階段で蒸しパンを一つづつ分け合って食べていた。そんな時間がいつまでも続けばいいと、このとき本気で思っていたはずなのに。それが今、こんな悪夢となって蘇るなんて。 あぁまぁ、どうでもいいか。いただきます。むしゃ。 #
by w_h_o
| 2007-09-02 23:52
| 月の煙
2007年 08月 13日
サクッ。鋭利な先端を突き刺す音。対象を動かないように固定する。
スー。肉を切断するために特化した刃を滑らせる。 彼女は麗しき解体者、目の前に置かれた肉塊(ごちそう)をその両の手に持ったお気に入りの解体道具でバラバラにしていく。すでに短くない時間が過ぎているはずのその塊は尚、たっぷりと赤みを帯びている。ひたすらに柔らかいピンク色。 右手でナイフを滑らすこと数回、解体作業を終えた彼女は恍惚の表情を浮かべそれを捕食する。その一連の動作は無音、まるでそれが正常と思わせるほどの手際のよさはその異常性を外界と隔離する。今、このひと時のみは彼女がマスターなのである。 「あんたすごいわ、こんなに奇麗な食べ方始めてみた、サイコー。」 「そう?これぐらい誰でもやれるわ。」 「いやいや、音もなくここまで奇麗にバラせないよ、相当手馴れてなけりゃな。いったいどんな人生歩んできたんだか。」 別に、特別な技術なんて要らないのに、ステーキ食べるぐらい。 #
by w_h_o
| 2007-08-13 00:11
| 月の煙
|
ファン申請 |
||