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2007年 05月 29日
いつものように布団に入った。
いつもと変わらない日々を送り、いつもと同じように睡眠を貪る。 ―はずだった。 外が白んできた、時計の短針が4を回った頃、息苦しさで目を覚ました。 息苦しい、もとい息ができない。呼吸が、止まっていた。 ガッ、ハッ・・・ハッ。 夢の続き、今でもあの体験は夢であったと思いたい。 必死に肺を動かす。しかし得られる酸素は僅か、ただヒュー、と喉を鳴らすだけ。 吸って。ヒュー 吐いて。ヒュー 吸って、ヒュー。吐いて、ヒュー。 吸って、ヒュー。吸って、ヒュー。吸って、ヒュー。吸って、ヒュー。 苦しい。苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦し苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦あああああああああああああああああああああああああああ。 次の瞬間、意識を取り戻した彼は病院のベッドの上にいた。 睡眠時無呼吸症候群。俗にそう呼ばれる"現象"。 恐らく、意識も無く彼は暴れていたのだろう。すぐに隣で寝ていた彼の愛した女はすぐさま彼の異変に気づき病院へ救急を呼んだ。 紙一重、深夜にもかかわらず病院側の迅速な対応で彼は一命を取りとめた。 その日から彼は、眠らなくなった。眠れなくなった。 およそひと月の間隔で、発狂したかのように何かを叫びながら、恐怖を感じる余裕もなくなり、意識を失うかのように、深い眠りを享受するようになった。 彼が眠りにつく時、空にはまんまるなお月様が―。 #
by w_h_o
| 2007-05-29 23:48
| 月の煙
2007年 05月 06日
「でさ、小川が言ったわけよ、ごめんなさいあなたとは付きあえません。ってさ。」
「まじで!もったいねー田沢さんにそんなこと言われたら俺、一生幸せで生きてけるぐらい有頂天だって!」 「あー、なんで小川なんだよなぁ。あんなやつの何処が良いんだよって話。」 「だよなだよな!なんかヒトメボレって奴らしいですよ。」 「なにそのお米?ふざけてんの?」 「お米じゃねーよ・・・なんだよその品種・・・。」 うるさい。 今何時だと思ってんだよ。ガキはさっさと帰れってんだ。 ヘッドホンを接続する。今日は・・・これにするか。 外から聞こえてくる雑音をシャットダウン。 昔から音楽を聴くのは好きだった。邦楽、洋楽を問わずジャズ、ロック、カントリー、R&Bからクラッシクまで。おかげで溜まったCDは2,000枚を超え、こうして毎晩どの曲を聴くかを品定めするのが日課。今日は嫌な事があった、その鬱憤を晴らすためにボリュームのつまみをMAXの表示まで回す。 うるさいなぁ。 隣の部屋からはパンクロックの音が僅かに聞こえてくる。 毎晩毎晩、こっちの迷惑考えろってーの。 うちのお兄ちゃんは無類の音楽好きだ。流行りの曲も買ってくるからこっちとしては助かるけど夜中に大音量で流すのだけは簡便していただきたいものだ。もっと音漏れしないヘッドホン買ってこいっての。そこには全然拘らないんだから。眠れないじゃないの。 #
by w_h_o
| 2007-05-06 00:09
| 月の煙
2007年 04月 29日
いっそ全てを投げ出して、こんな風に自由に生きていこうと思ったこともある。
今日は何をしよう。今から何処へ行こう。 先の事など考えず、今の事だけを思案する。後悔などせず、ただ幸福だけを享受する。 そんな生き方も、あったのかもしれない。私はまだ後戻りできるのだろうか。 秩序を外れ、世界を裏切り、絶望しかもたらさなかった自分の生を憎んだ。それだけを生きていく為の糧として食いつぶした。 そんな私に、あの子のような生き方が出来るのでしょうか。神様はこんな私にお許しを下さるでしょうか。まだあの人と一緒にいられる未来が、残されているのでしょうか。 「よし、決めた。」 この子のように生きてみよう。最初のうちはすぐに昔のことを思い出して絶望に明け暮れてしまうかもしれない。でも少しずつ、少しずつ。一歩でも前に進めればいつか必ず、この子に辿り付けるはずだから。 「邪魔したね、私がんばるから。」 ぎこちない作り笑いをその子に投げる。こんな作り笑いでも、いつかは本当の笑顔になれるかな。 立ち去る私の背中に、その子はたった一言、ミャー、と言ってくれた。 #
by w_h_o
| 2007-04-29 23:06
| 月の煙
2007年 04月 27日
怖くない。 怖くなんかない。 そう思うことを自分に強要した幼き日々。毎日がただ過ぎていくことを当たり前としてきたあの頃が、私の全てを形作っている。 酷いことをしたと思う。酷いことをされたと思う。 母親の怒声と暴力が飛び、そんな母を咎めもせずひたすら傍観者きどりだった父親。そしてそんな現状を打破しようとも思わず、ずっと口も開かず耐え続けた少女。その三人が、私の全て。 なぜもっと早く逃げなかったの?なぜ誰かに助けを求めなかったの? 昔の自分に何度も問いを投げたところでその少女は決まってこう答える、「私はあの二人を愛していたのだから。」 そう、愛していたのだ。私を生んでくれてありがとう、私を育ててくれてありがとう、と。 他の家の事など知るよしも無く、誰でも私と同じような仕打ちを受けてニンゲンという人格が備わっていくものだと思っていたから。醜い仕打ちではなく、素晴らしい愛の形として受け取ってしまったから。ワタシダケジャナイカラ。 だから、愛してしまった。感謝してしまった。馬鹿らしいことだ。 不愉快だ、こんな自問など本当に不愉快。 そう、不愉快だ。不愉快なものは愉快にすればいいじゃないか。小さな私がそれに気づいてからの反転は早かった。 道具なんて部屋の中にいくらでも転がっていた。父親が飲み干したとても苦い匂いがするお酒のビンで。母親がいつも使っている、しかし私のためには一度も使われることの無かった料理道具の包丁で。いくらでもやり方はあった。 ハハ!アハハ!ナンダ、コノ家ハコンナニモ”愉快”ナトコロダッタジャナイカ! 今でもあの頃を思い出すと、つい、口元が歪んでしまう。 #
by w_h_o
| 2007-04-27 05:25
| 月の煙
2007年 04月 07日
自分の身長ほどもある草木が四方を囲む。
道なき道をただひたすらに進んでいく。どんなに視界が悪くても、もう幾度となく繰り返したその道程は私を迷わせること無く目的地へと誘ってくれる。 今宵はお祭り。 祭囃子で賑わう会場には向かわず、煙草の一本でもふかしながら目的の場所へと向かう。 雑草のジャングルを抜けた先の湾岸沿いの小さな波止場、昔は漁師たちがここで酒の一杯でも交わしたのだろうか。今では苦りきったこの水に魚など住めるわけも無く、結果としてこの波止場もその役目を廃れ、こうして現地の住民にすらすっかり存在を忘れ去られてしまっている。 だからこの場所が愛しかった。誰にも邪魔されること無く、一人で在ることを頑なに肯定してくれるこの場所が。 否、客観的に自己を解析すればするほど、それは嘘であることが明確になる。 私にしてみればこの場所は二人の場所だったはず。私と彼女だけの秘密の場所。 堤防を登るために設けられた一段一段がやたら高い石造りの階段。 精一杯足を伸ばして一段上がり、振り返って彼女の手をとり引き上げる。 一段登るごとに「ありがとう。」という彼女の可愛い声が聞こえてくるのが嬉しくて、精一杯階段を踏み登る。一番上までいっても、ボクの背なんかよりもっと高い草木が邪魔をして先には進めないけど振り返るととても奇麗な水面と、とってもかわいいあの子が居てくれるから。 そうやって辿りついた一番上の段がボクとあの子のお気に入り。そこで毎日お喋りをして、いつまでも美しかった時間が過ぎていた。 それは過去の幻想。しかしその階段は何年も変わらずにその場所にあった。 萎縮する心とは裏腹に成長した私の体は何の苦もなくその階段を登っていってしまう。 まるで昔の自分を侮辱するかのように悠々と頂上に立ち、やはり昔と変わらないほど高い草木が立ち並んでいることに安堵していると後ろからドンッ、と小さな破裂音。続いて二度、三度と繰り返される。 祭りも終盤に差し掛かったのだろう、湾の真ん中ほどから昇る一筋の光は見るものに期待と高揚をもたらし、誰の目も釘付けにして離さない。 夜空に舞う一輪の大きな花は、しかし私を振り向かすことはできない。 振り向いてしまったら、そこに彼女が居ないことを認めなくてはならないから。 #
by w_h_o
| 2007-04-07 09:37
| 月の煙
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